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義母の脳梗塞発症に居合わせる

身辺雑記 社会生活

義母が脳梗塞でたおれた。


義母が飼っている犬の散歩のため、毎日妻の実家を訪れている。
その日も犬をリードに繋ぎ「行ってくるよ」と、義母がいる部屋の窓越しに手を振ってから散歩に出かけた。その時は義母も手を振りかえした。
およそ15分くらいたっただろうか。
犬の散歩を終えて、いつものように玄関から部屋に入っていった。

トイレのわきに杖が置いてあり、トイレに入っているのかな?と思いつつ部屋の扉を開けた。すると、義母は部屋の椅子に腰かけていた。
お義母さん、ただいま、と声をかける私を少し焦点の合わない眼で黙ったまま凝視する義母。
散歩行ってきたよ、今日はどんな調子?と問いかけるがまったく返事をしない。義母の様子が尋常ではないことに気付くのにそう時間はかからなかった。
よく見ると右側の口角から涎がでている。

 

あ、これは。と、思う。


自分の頭の中が混乱してくるのを感じる。
口角の涎をティッシュでふき取ってあげながら、どうしようかと逡巡する。
「調子が悪いの?しんどい?」と声をかけるがまったく応答しない。

 

まず頭に浮かんだのが、自分の車で病院まで連れて行こうかと考える。
だが、こういう状態の人間を、男と言えどもたったひとりで車に載せるのは骨の折れる仕事だということはすぐに想像がつく。

 

少し迷った後、電話の受話器を上げ、119番をダイヤルプッシュする。
それまでの時間はどれくらいだったろうか。すごく長かったような気もするし、数分だったような気もする。

 

救急隊員がおよそ10分後くらいに駆けつけ、私に脳卒中の疑いを告げる。
本人との続柄や前後の事情、病歴やその他の諸々を矢継ぎ早に訊かれる。
特に困ったのが常日頃服用している薬のことであった。
服用している薬はもちろん、お薬手帳もその辺りに見当たらない。焦るばかりの私に「ワーファリン*1を飲んでいますか?」と。その名称は聞いたことがある。
心臓に持病がある義母は・・恐らく飲んでいる筈だ。

 

妻に連絡するにも犬の散歩の途中で携帯も持参していない。ようやく救急隊員の携帯で妻の勤務先に電話した。
自分の無能さと歯痒さにテンパってしまう。

 

後に医者の説明で分かったことだが、血液検査でワーファリンの効果を示す値が1.7(普通は1.0以下)を超えると、脳血栓を溶かす点滴薬「アルテプラーゼ」*2を投与できないそうだ。ワーファリンの効果がないことが義母の命を救ったとも言えるが、逆に言うとワーファリンが効いていなかったから脳血栓で倒れるという事態を引き起こしたとも言えるようだ。

 

実の父と義理の兄も脳梗塞で亡くなっている。
これで身近な人が3人目だ。

 

発症後4日を経たが、右半身は麻痺状態だが今は小康を保ってる。昨日見舞ったとき、言葉はまだ発せないが、彼女が私に向かって、動作可能な左手でなにかサインを送ってきたときは目の奥が熱くなった。


しばらく理解できなかったが、時間を知りたいという意味だと思ってもう一度尋ねると、彼女はサムアップした。

 

「いま、昼の2時半だよ」

 

私の言葉に納得したのか、病室の天井を見つめた。

 

 

 




*1:血液凝固阻止作用がある薬

*2:発症3時間後までの投与が有効とされている