愛犬の死

 

先月末、飼っていた犬が死んだ。
ペットロス症候群とまではなあ、と思っているつもりだけど。
かなりと言っていい程、喪失感に浸っている。ブログなんかに書くつもりはなかったけど。備忘としても残そうと思い直した。

 

年齢は16歳と何か月かを経ている老犬だった。人間でいうと80歳は超えている。この犬は妻の母親が飼っていた犬だ。母親が病で倒れ、面倒見られなくなり引き取ったのだった。ウチに来てまだ1年と少しだった。寿命ではあったのだろう。けれど、もう少し何とかしてやれれば、と悔やんでばかりだ。

 

2014年末の冷たい雨の中。帰宅すると、いつもなら犬小屋で寝ているはずなのだが、何故か雨に濡れながらガレージの真ん中でうずくまって寝ていた。
おいどうした、と声をかけたが起き上がろうとしない。嘔吐したのか汚物や、糞便が周りのあちこちに。バスタオルをひっぱり出してきて、体を拭いてやったが震えが止まらないようで、悲しげな目をこちらに向ける。


抱きかかえて玄関に連れて入った。尿もれペットシートの上に古毛布やらバスタオルを敷いた。いつもの自分の寝床ではないので落ち着かない様子だったが、雨に濡れた体を拭いて、夕食のドッグフードを食べさせた。食欲はまだありそうだ。そして水を飲ませた。しばらく眉間を撫でていると落ち着いたのかそのまま寝てしまった。

 

どうやら風邪だったようで、しばらくすると回復した。
でも、犬は人間とは違う時間軸を生きている。
これをきっかけに、今年に入ると衰えが目に見えて進むようになった。

 


背を撫でると、今までは皮下脂肪で丸みを帯びていたのに、背骨の感覚がごつごつと手にあたる。結構食べるのだが痩せていく。よく見ると特に右目は中心が白濁してきた。前足はまだよく動くが後ろ足がそれについて行かないようだ。人間の老化現象と同じだと思った。あれだけ好きだった散歩も排せつを済ませると、すぐに帰りたがる。そして認知症なのか、つないでいるリードを、クルクル回って動き回り、自分で後ろ脚に巻き付けて動けなくなったりする。

 

散歩は止めにして、外へ出いかないようにガラクタを集めてバリケードを作り、狭い庭だが食事前だけ放し、運動不足にならないようにした。雨の日や寒い日は玄関に入れる。寝ている間に尿をもらすのでペットシートは欠かせない。白内障で目ヤニが出る。うっかりしていたら、右目の下が目ヤニでただれていた。洗浄綿で拭くと体毛がぽろっと落ちた。
こんなになるまで、ごめんな、と声をかける。目の下を拭いてやると気持ちが良いのだろう、目を閉じてじっとしていた。

 

最後の1週間くらいは朝の5時ごろから吠える。近所にも迷惑だし様子を見に行く。汚れたペットシートを替えてやり新しいタオルを敷く、水を飲ませると吠えるのをやめた。おまえ、呼んだのかい?
妻と交代でそんな日々を過ごした。

 

獣医は、薬をはじめ10日分・・、と言いかけて持たないかも、と5日分の薬を処方した。死ぬ2~3日前はほとんど食欲がなく、食器を口に持って行っても食べない。獣医からもらった薬を飲ませなきゃいけないし、これならどうかと、レトルトのドッグフードを手に載せて食べさせた。それならなんとか舐めてくれた。手がベトベトになったけれど、いとおしい。次の日は下血をしていた。

 

その前の晩、吠えるのでまた玄関先に入れた。もう最後だろうと、つけていたハーネスを外す時に苦しみを我慢するためだろうか、ハーネスをくわえて放さない。くわえたまま吠え続ける。

 

 

その日、私は健康診断で休みだった。妻も休みだった。
診断に行っている間に逝くかもしれない。見取ってやって、と言い残して出かけた。2時間ほどで帰ってくると、犬は荒い息を吐くだけだった。
大好きな散歩をしている幻想でも見ているのだろうか、横たわったまま歩くように前足を動かすのが見ていて辛い。ペットボトルで水をやる。初めは舌をペロペロと出し飲んでいたが、そのうちに口に流し込んでも反応しなくなった。

 

死の淵にある時、人間なら痛み止めや点滴をして、酸素吸入をするんだろうけど。
息が止まりそうになりながらもそれでも何度か吹き返した。
それを数回繰り返したあと、息をひきとった。
開いている瞼を閉じさせた。
その時わずかに瞼がふるえたような気がする。
横たわった犬の亡きがらを手で撫でながら涙が溢れてきた。
二人とも休みの日になるまで待ってくれたのだろうか。

 

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           <2015年1月の撮影>

 

本当にありがとうね。ゆっくり眠ってくれよ。